〜 瞳きらら 〜

肌寒く風の強い日「海きらら」に彼女を訪ねた。迷路のような水族館の裏側を案内してくれる背中に付いて歩く。白い長靴には手描きのカブトガニ。「生きものって面白い」と輝く横顔は心躍らせている小さな子どものようにも見える。

小さな動物園

佐世保出身。両親と姉、そして幼い頃から犬と暮らしていた。幼稚園の頃から決めていた将来は「動物園の管理人さん」になること。周りの女の子が嫌がる虫も平気、生きものが大好きな子どもだった。小学校に上がる頃には自分の部屋で動物の世話をはじめる。両親はダメとも言わず見守っていたという。ザリガニ、蛙、亀、鳥、ウサギ、プレーリードッグ、イグアナなど、早く触れたくて学校から走って帰った。当時は今ほど飼育技術が無かったと振り返る彼女が笑う。獣医か飼育係になろうと思っていたが進路を決める頃、親の勧めで歯科衛生士の道を選択。家で生きものに触れながら生活していた。

森と海

歯科衛生士の専門学校生になっても動物園勤務の夢は持っていた。ある時、佐世保市亜熱帯動植物園(現在の九十九島動植物園森きらら)に空きアリと情報を得て面接を受け「学校をポイっと辞めて動物園に行きました」臨時職員採用。働くのが楽しくて休み方が良く分からず、体が空いている時に何かできないかと考え、公休や業務後に水族館でアルバイト。五年間の動植物園臨時職員の生活のうち二年間は水族館でも働いていた。当時は男社会だったという水族館で正社員として採用され十六年、今では休みになると、体力維持の為にジャザサイズやジムで体を動かしボルダリング、山登り、ボクシングジムにも通う。彼女はイルカとクラゲ以外すべてを世話する魚類担当。始業前に行うラジオ体操は、スポーツの秋にはじめて以来チームで今も続けているのだとか。無線連絡の声も明るく弾む。

可愛い魚たち

水槽は毎日掃除を行う。エサは人間がくれると知っている魚たち。同じ種でも個性があり、なついてくる。撫でて、エラを触ってと近寄ってくる魚たち。一日のうち一時間半は水槽に潜る。二十度に保たれた大水槽にいると後半は冷えて体力勝負だが、掃除の後にエサをあげるのが楽しみ。手渡しでご飯を食べる魚がいる。環境学習やフィールド観察会など大人から学生まで依頼ごとに出張。月に一回は漁船に乗って調査に赴き、確実に自分たちで確認した魚を展示。地元密着の水族館。あの子はデビューしたばかり、あのウシエイはこの水槽の中で生まれた子と母と紹介も楽しい。新入りを水槽に入れる時には、他の魚が見に来るという。「魚にも感情があるんですよ」と語る笑顔が輝く。

ミサゴ襲来

九十九島は生きものが豊富で、よそで話題になることがここでは話題にならないと話す彼女。「見えますか?あの鳥は絶滅危惧種のミサゴです」指のずっと先、木の枝に大きな鳥が止まっている。大水槽の魚たちが水面近くに来るタイミングを計っているという。魚たちがエサの時間や人の動きを覚えるようにミサゴも見ている。彼女が水中にいる時は、ミサゴが水槽に飛び込むバーンという音が聞こえるという。ちょうどエサの時間が近いと聞き眺める。目の前でミサゴが急降下し水槽に飛び込んだかと思ったら、もう飛んで行く。一瞬のことだった。ミサゴが空中で旋回し鳴き空中で止まるように留まり飛び込む様子を定期的に間近で見られる。いろんな生きものを見ていても毎日飽きずに楽しいという横顔から、休みにも職場に来たくなるという彼女の言葉に納得した。

長靴に描くほど

ずっと調査研究を続けているというカブトガニ。月に二回は調査に出て、四年に一度行われるカブトガニ国際学会にも参加。アメリカ、香港に出席。日本では佐世保で主催し各国から研究者が集まった。カブトガニは夫婦で生涯を過ごす。「オシドリ夫婦って言いますけど、オシドリは一年でペアを変えます」結婚式でスピーチするならカブトガニと笑う。現在水族館の中にいるカブトガニはイカ、貝、ゴカイ、アジなど何でも食べる。生きた化石の形の凄さ脱皮する面白さ。砂に潜っていると体調がいいらしいと分かったが、機嫌が良いのか悪いのかも分からない。分からないのも面白くて、観察したデータを取っている。

水槽の中と外

魚たちを眺めていると人間は思っている。しかし中には水槽から人間を見ている存在もいるらしい。今年九月で二十一年水槽に居る「タマカイ」はオスだけど、スタッフから「お嬢さん」と呼ばれている。手からご飯を食べ底に落ちると食べず、欲しくない時は要らないと意思表示。気持ちが良いとエラを開くか体を傾け怒っている時は模様が変わる。お嬢さんの迷惑にならないようにと細心の注意を払う。唇がセクシーなボラ。ビックリする程アピールしてくるカメは人好きだけど抱っこは嫌い。新種のナマコ。話を聞きながら見ると何倍も面白い。しばらくして再び彼女に連絡を取ると四月から「海きらら」と「森きらら」の兼務になったという。夢を叶えた当時と同じように両方を行き来する彼女、肩書も役割も増え更に忙しいことだろう。家に帰ると大型犬二頭が全力で彼女を迎える。全ての生きものを面白いと見つめる彼女の瞳には、誰もが持っていた幼い頃の好奇心が宿る。

魂の喜びを生きていると
後姿までもが光輝く
あなたの喜びは何ですか

海きらら森きらら
岩岡 千香子 さん
水族館事業部 クラゲ・魚類課 課長代理
動植物園事業部 動植物企画課 課長代理
動植物園事業部 診察・繁殖課 課長代理
西海国立公園九十九島動植物園 副園長

させぼパール・シー株式会社
佐世保市鹿子前町1055番地
ライター
CHIKA
信州在住・佐世保は第二の故郷
ブログ「『お花畑で寝転んで』大げさなくらいでちょうどいい実行委員長CHIKA」
https://ameblo.jp/whenyouwishuponastar0603/entrylist.html mc_chika_love_wedding@yahoo.co.jp
女性は世の中の「花」だから。
月刊「はなはな」が創刊当初から伝えたい想いです。
「はなはな人」を読み終えたあなたが一人の女性としてあなたの場所で咲くエネルギーになったらと願っています。