〜 「ソーラースイング」 〜

窓際に並んだ小さな人形が日光を浴びて揺れている。ゆらゆら動く様子を子どもたちが立ち止まって眺めていた。旧佐世保市民会館の信号前、店頭のカラフルな風船で作られた作品は大人でさえ微笑みを浮かべてしまう。しばらく眺めてから、彼女に会いに扉を開けた。

いつのまにか

妹と弟の三人姉弟の長女。幼稚園の頃に保母を夢見た。大学卒業後に福祉施設で働き、後に幼稚園に勤務。女性ばかりの職場で年頃には結婚するものという雰囲気の中、結婚に興味が無く母親に向いていると思っていなかった彼女は、その環境に身を置くのが面倒になり転職。今度は真逆の環境、男女参画推進から女性が参入した男性ばかりの職場でNC旋盤プログラマーとなる。出入り業者の口うるさい図面屋の男性と仕上がりを巡って常に口喧嘩。あまりにうるさい彼に結婚相手を探すのは難しいであろうと判断した彼女、同僚たちと「結婚させる会」を発足。ところが彼は、そんな彼女にアプローチ。一緒に出掛けてグラスを傾ける彼女の隣で、お酒を飲む女性はどうのこうのと言い出した。一つ年下お酒が飲めない彼。つまらん。全く意識せずに振る舞った結果が、現在の夫である。

夫婦喧嘩と娘の涙

昔も今も喧嘩はするが長くは続かないという二人にも喧嘩が長引いた時期があった。結婚後、生産設計の事務所を起し夫婦で働いた。リーマンショック後仕事が減り、事務所を閉めた夫はIT企業の営業社員となる。ところが夫は趣味の風船を仕事にしたいと言い出した。娘の幼稚園バザーの為にお父さん仲間とはじめた風船。一家の大黒柱には安定収入のサラリーマンでいて欲しい。彼女は反対し、夫婦喧嘩。そうこうするうち「一緒にやろう」と仕事を辞めた夫。やるしかない。幼稚園や小学校のバザーにはじまりブライダルでしませんかと声をかけられ、誕生日やお祝い用の風船も作る。きらきらフェスティバルの販売ブースにも立った。週末やクリスマスシーズンも忙しい。バルーンを作り多くの子どもたちの笑顔と共にいる一方で、小学校低学年の愛娘は泣いていたという。

夢中で走る日々

趣味でしている頃から、全国を回るバルーンパフォーマーを街で見かけると「夫が趣味でしていて・・どうやって作るのですか?」と声をかけた。持って行っていいよと渡されたバルーンを夫が家で分解・研究。仕事にしてからは、夫が作ったバルーンをお客様に渡すのが彼女の役割だったが「あんたは何を作ると?」と聞かれ悔しくなった。たらこ捻り、絞り捻り、輪捻りの三つが出来ると作れるようになるものが広がる。練習して作品を作れるようになった。ヤシの木、サル、カニなどたくさん作って四年生の娘の部屋を飾り喜ぶだろうと反応を楽しみにしていると「部屋に風船置かんでって言ったやろ!」怒らせてしまった。そういえば確かに家は普段から風船だらけだった。

ゆうじおじさん と へん子ちゃん

ヘリウムガスのボンベは六十キロ。一生に一度の結婚式にブライダル素人が関わっていいものか。家から車までの三十段の階段を重たい迷いと一緒に運んだ。口コミやお世話になった方から声をかけられて少しづつ仕事になっていく。「今が一番だよ、他にやってる人が居ないからイイヨ」彼女を励まし続ける夫。「ご飯だけは一生懸命作ってやるけんと応え支える彼女。「風船を作って売るだけじゃダメだ。ショーをしよう。君がMCやってさ。」ある日夫が言う。「普通の主婦にそれを言う?」研究熱心であきらめない夫に引っ張られるようにして夫婦でパフォーマンスを行うようになる。彼女の頭には風船で作られた帽子。

ついてきて良かった

趣味からはじめて足掛け十九年、名切に店舗兼事務所を構えて六年が過ぎた。キャンデイのように色とりどりのゴム風船が入った瓶が並んでいる。開店当初は「あんたたち、そんなんでご飯食べれるとね?」と心配され、何年か過ぎると「ここまで続くと思わんやった」と近所で休憩するタクシー運転手さんに感心された。はじめる前は覚悟しておかなければと思っていたけれど、今はこの世界に居られて楽しい。作っている様子を真剣になって見ている目が、出来上がった時にパッと輝く瞬間。その顔を見るのが嬉しい。昨年、娘が大学を卒業した。見たことも無い作品を取りに行かせようとすると断り、クリスマスも正月も無いと嫌っていた娘が、卒業のプレゼンでバルーンを取り上げたと輝く母の顔で言う。

笑顔の隣に

夫とは仕事も家も二十四時間一緒。買い物にもついて来るし、携帯を替える時はペアになる。気づけば隣にある笑顔。パフォーマンスで二人それぞれ作り「欲しい人」と問う長男長女コンビは意外と張り合っていていいかなと笑う。ショーの中でもウクレレや皿回しなど夫は常にいろいろ考えている様子だけど、今が満足。魔法みたいと歓声を上げる子どもたちの姿も大人や年配の方の喜ぶ顔も嬉しい。朝から暗くなるまで飲まず食わず作る日もあったけど、風船屋になって一番良かったのは、ワクワクすることだとササッと手早く目の前でピンクのプードルを作ってくれた。ゆうじちゃんと夫を呼ぶ声。寄り添う姿も微笑ましい。笑って時に落ち込んで、今日も夫婦でどこかの誰かを喜ばせていることだろう。

喜びも悲しみも怒りさえ
光の中に溶かしたら
共に生きてゆく糧になる

TiKiTiKi バルーンアート ティキティキ
バルーンコーディネーター
バルーンアーティスト へん子ちゃん

川添 由美子 さん
佐世保市花園町1-3
Tel&Fax:0956-88-7491
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ライター
CHIKA
信州在住・佐世保は第二の故郷 ブライダル・イベント・式典MC、ナレーター、ラジオ放送作家 mc_chika_love_wedding@yahoo.co.jp
女性は世の中の「花」だから。 月刊「はなはな」が創刊当初から伝えたい想いです。 「はなはな人」を読み終えたあなたが一人の女性としてあなたの場所で咲くエネルギーになったらと願っています。