〜 窓辺のサンキャッチャー 〜

相浦川を渡って訪ねた扉を開けると、いろんな雑貨が並んでいた。カウンター席、向かい合ったテーブル席、奥には川の流れを見おろす先に山を望む眺めの良い席があった。半年に一回はベトナムへ行くという現地の音楽をBGMに彼女が話してくれた。

見えない母の背中

吉井の生まれ。姉と弟と共に山の麓で育つ。十三歳くらいの時に亡くした母は、保育士をしていた。進路を考える高校生の頃になり家族から「資格持っとかんとつまらんよ」とアドバイスを受け、それならと亡き母の背中を追いかけた。高校三年の秋からはじめたピアノは、やってみたら思ったより面白かった。ところが学生生活がはじまるとピアノで赤点を取ることもあり大変だったという。保育士として働き、職を離れた今もピアノは苦手で今も童謡くらいしか弾けないと照れる。「子どもの笑顔ってよかとですよね、屈託がなくて」優しく微笑む彼女を訪ねて、小さなお客さんも扉を開けてやってくる。

一度の人生だから

一生保育士をするものとなんとなく思っていた二十代、休みが取れるとバックパッカー一人旅。いつかベトナムへ行ってみたいという想いを抱えつつ、当時は女性一人で東南アジアという選択肢は無く、テレビで見て憧れたヨーロッパへ渡った。忘れられないギリシャの青い空。ローマのバチカンの存在感。様々な建物の質がその国そのものだという印象を持った。結婚後も続けた保育士を辞め、福祉の勉強をしたくなり三十八歳で短大へ進学。後に高齢者福祉の仕事に就く。「人生は一回よね」彼女がいつも思っていること。行動して後悔があったとしても、やりたいことをすると決めている。福祉の現場で働く日々を過ごし、退職の時期を迎えた彼女は、ついにベトナムの地に導かれることになる。

ベトナム

中学生の頃にベトナム戦争終結。その場所に行ってみたいという想いが不思議と心にあった。戦争の痕跡がありながら活気がある場所。復興してゆく力。日本の戦後もこうだったのかも知れない。細く長く続いていた想いの先にベトナムの友人ができて、五年程前からどんどん増えていった。共に時間を過ごすうちに、おいでよと誘われ退職のタイミングで初めてベトナムへ行く。出逢う人は皆、人間味溢れる人ばかり。枯葉剤の影響があったとされた当時の子どもたちは四十歳代になり、リハビリなどの支援の多くは日本からの出資だと知る。日本を「ニャット」という好意的な人たち。ホーチミン市民の平均年齢は二十八歳。強く逞しく、よく働く女性たち。エネルギッシュな街を歩いた。もっと知りたい。何かベトナムに関わることがしたい。想いは帰国して更に膨らんだ。

アジア雑貨の店

商売の経験はなかった。でも、お店をすることに決めた。家族や他人に迷惑をかけない範囲でやりたいことをしよう。夫に黙って準備を進め、平成二十五年十一月オープン一ケ月前にやろうと思っていることを伝えた。言い出したら聞かんのだろうという顔をされたと当時を振り返って笑う彼女。それでも店内でイベントを行う時は、雑貨スペースを小さく棚の移動や駐車場係をしてくれる夫。「必要な時だけ呼んでごめんね」と謝ると「仕方ない」と協力してくれる有難い存在。カフェスペースを設けてベトナムコーヒーやフォーを楽しんでもらえるようにすると、長崎県立大が近いこともあり留学生もやってきた。一人の留学生がフォーを食べて「ちょっと違うよね」と言う。現地の調味料で独特の味を再現したつもりでいた。近所に嫁いでいるベトナム女性に話すと、今度里帰りをする時に一緒においでと誘われた。

食べくらべ

カンボジアとの国境近くにあるタイニンは、ベトナム戦争の時には司令本部があった町。友人の実家に滞在してベトナム料理を習った。庭にはバナナやドラゴンフルーツが実り、台所には女性たち。「久美子、カメラ、カメラ」やり方やタイミングを撮影するよう促され、彼女の作った料理と先生の料理を並べ違いを舌で覚えた。これとこの調味料は必ず買って帰るようにと指導あり。作る時は女性だけ、料理が出来る頃にはどこからか男性たちがやってきて皆で楽しく食べる。市場での買い物の仕方も習った。先に籠に入った鶏を選び支払いを済ませ、他のものを買い最後に肉になった鶏を持って帰り、隅々まで全部大事に使う。彼女が滞在中はゲストルームを使うようにと、頑なに親戚十何人かは廊下に寝ていた。挨拶くらいしか知らない片言のベトナム語で気持ちを通わせて過ごした昨年の夏。

エプロン

「みんな優しかっちゃんね」写真集のページをめくり想いを馳せ、また行きたくなったと呟く。お店の三周年が過ぎた時にお嫁さんからお祝いにもらったというエプロンをしてお茶をいれてくれた。息子二人は家庭を持ち、母の役割も終えた。なんやろうベトナムって不思議な国。一〜二年くらいだったら住んでみてもいいな。日本とベトナムが越えてきた戦争の歴史と傷跡、平和の尊さ。もっとベトナムの良さを広めたい。もっと深く知りたい。日本の西に身を置きながら、彼女の想いは空を駆ける。

心豊かな日常と非日常の楽しみ
あなたのやりたいことは
誰かの原動力になる

中間 久美子 さん
雑貨カフェ ライラ
佐世保市大潟町103
TEL:080-8351-6203
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ライター
CHIKA
信州在住・佐世保は第二の故郷 ブライダル・イベント・式典MC、ナレーター、ラジオ放送作家 mc_chika_love_wedding@yahoo.co.jp
女性は世の中の「花」だから。 月刊「はなはな」が創刊当初から伝えたい想いです。 「はなはな人」を読み終えたあなたが一人の女性としてあなたの場所で咲くエネルギーになったらと願っています。