〜 漁師町の公民館 〜

「どうぞどうぞ」と迎えられ、四人の女性たちとテーブルを囲んでお茶を飲む。一緒だと安心するから来てもらったと彼女の照れ笑いから話が始まった。

土俵の記憶

東浜町の生まれ。幼い頃に兄を亡くし、一人っ子のように育った。家のすぐ前には立派な土俵があり、地域の子どもたちが相撲を取って遊んでいたという。昭和初期にこの地出身の関脇が活躍した史実もあり、地元の誇りだったのだろうと彼女が語る。小学一年の頃に土俵の傍に桜の木が植えられた。土俵は無くなったが、今も春になると当時植えられた桜が綺麗に咲く。叔母が女相撲をしていたのを子どもの頃から見ていた彼女にとって相撲は身近なものだった。結婚して息子と娘が生まれ四人家族になった。

化粧まわし

彼女の生まれた港では、昔から多くの住民が漁業に携わっていた。男性が夜に漁に出かけ、女性は早朝に陸揚げされた魚を加工して生計を立てた。女相撲は「相撲」と名が付いた「踊り」であり、もともと漁師の妻たちによって行われていた。そこには、二つの祈りと願いが込められている。一つは、漁に出る夫が無事に帰れるようにと安全祈願。二つ目は、豊かな海からの恵みを頂けるようにと大漁祈願。こうして地域の祝い事や奉納の踊りとして受け継がれてきた。「舞子(まいご)」と呼ばれる化粧まわしには、彼女の名前から一文字取った「鶴錦」の金文字。先輩方のものを手に取り、材料を買い求め、同じように縫って作った。裾裏に付けられた金色の鈴は彼女が動くと音を鳴らす。

心ひとつに

女相撲は次の世代に伝えてゆくものだと思っていた。それでも、自分がするとなると恥ずかしく声をかけられても断ってきた。夫に先立たれ何も手につかず、ふと我に帰った時、友人の何人かは女相撲に入り活動をしていた。「入ってくれん?」誘われて、やってみようという想いが恥ずかしい気持ちを上回った。仲間の中には別の地域や県外からお嫁に来た人もいる。人生の様々な転機を、時に気持ちを吐露し、みんなで互いに励まし合ってきた。「参加していて助けられた。」と明るく笑う。毎年春の訪れを機に活動がはじまり、公民館に集まって練習や話し合いが月に二回。まずはお茶を飲んで語らうのが楽しい。現在仲間は平均年齢七十三歳、総勢十四人。イベントなどに出る前には月に二回から四回の練習をして本番に備える。練習で踊りが揃わないこともあるのに、本番になると「不思議とバチっと揃うとよね」彼女の明る笑い声に仲間が頷く。

「祈り」と「祝い」

四人に実際の踊りを見せてもらった。「ちゃんちゃりこ、ちゃんちゃりこ」の掛け声に合わせ、舞子をつけた彼女と祖母井順子さん、江口千鶴子さんの「舞い手」が土俵に見立てた紅白で編まれた縄に近づく。三味線、太鼓、鐘の音に合わせて「唄い手」﨑田ミヤさん九十三歳の唄う相撲甚句の張りのある声が響き、踊りがはじまる。踊りの後に「とざいとうざい」とはじまる相撲の三番勝負で三回目の取り組みは大きな所作の千秋楽。そして餅つき踊りへと進み、最後に見物客に餅まきを行う。一つ一つの動作は決して難しくなく、練習したら誰でもできるという。昔から伝わり教えられた所作を深め、もっと先輩方に近づきたいと練習を繰り返す。昔は港でされていた奉納踊りは、漁師が少なくなった現在、落成式、公民館祭り、介護施設の慰問などで踊ることが多い。訪れた老人ホームの入居者や家族が涙を流して喜んでくれる姿に嬉しさがこみ上げる。

七つ道具

白いシャツとスパッツの全身白装束、黒いまわし、ハチマキ、足袋、法被、杵、扇子の七つ道具は必ず揃えて箱に入れ、準備をしておく。何でも奇数に揃えて縁起を担ぐ。まわしをするのは今でもやっぱり恥ずかしい。身体の前には化粧まわしがあるからいいけれど、後姿が心もとない。お客さんが近いと恥ずかしい、でも、みんなと一緒だからできると彼女が仲間を見る。頷きあう四人。地域婦人部の役員として毎年小学校を訪れ、五年生の子どもたちに東浜の伝統のひとつ目、三段の「押し寿司」を教える授業を行う。三年生には伝統の二つ目の「女相撲」を見せにゆく。「大きくなったら入ってね!相撲とろう」ニコっと笑って言う彼女に応えて「お相撲したい」と言ってくれる子どもの声に嬉しくなる。

守りたい

百十年の歴史があると伝えられる女相撲。港町佐世保では、他の地域でも女相撲があるという。一度は消えかけていた東浜町の女相撲は、市政百年の年、今から十七年前に復活を遂げた。昔々は、お化粧をして鬢付けして髪を結っていたと聞く。「今はまとめ髪に上げます」彼女の手が髪をなでる。二年前には九州地区民俗芸能大会へ長崎県の代表として仲間揃って参加した。続いて欲しい、守ってゆきたい地域の伝統文化。家の前に土俵があったのも今考えると縁があったから。県外に家族と住む娘、息子の嫁、大きくなる孫たち。命のリレーは繋がれた。大きな家族のような地域の女相撲を、若い世代に繋いでいけたらと仲間と共に彼女は想いを温め続けている。

女同士だから分かち合える
集ってしゃべって前に進む
共に、笑って生きてゆこう

東浜町一組女相撲保存会 会長
鶴田 なをみ さん
ライター
CHIKA
信州在住・佐世保は第二の故郷
ブログ「『お花畑で寝転んで』大げさなくらいでちょうどいい実行委員長CHIKA」
https://ameblo.jp/whenyouwishuponastar0603/entrylist.html mc_chika_love_wedding@yahoo.co.jp
女性は世の中の「花」だから。
月刊「はなはな」が創刊当初から伝えたい想いです。
「はなはな人」を読み終えたあなたが一人の女性としてあなたの場所で咲くエネルギーになったらと願っています。