〜 無心に回す 〜

地上に触れた途端に独楽が横に転がってゆく。「無心でするの」彼女の声に「ハイ」と答えつつ教わった「投げ下ろす」で頭がイッパイ。目の前で凛と投げる彼女の姿に見惚れた。

父の背中

祖父と父が独楽を作る姿を見ながら育った三姉妹の長女。姉妹の中でも独楽回しが上手だったという。漆や蒔絵の修行に行く夢を持つ娘時代を過ごす。「女の子は親元から通わんば他所に行ってどがんするか」「結婚したら家に入れ」時代の流れの中を生きてきた。独楽以外の遊びをする子どもたちが増えてくると職人たちが工房を去った。たった一人で独楽を作り続ける父の姿に彼女は思った。夫に父と独楽を作って欲しい。継いで欲しい。「夫に『銀行辞めて』と毎日言いました」。それは、一年間続いた。

繋がれたバトン

「コンピューターが好きで選んだ仕事でしたからね」三代目である彼女の夫が当時を振り返る。「先代が凄く良い人で・・」少ない言葉に込められた先代への想いが伝わってくる。機械が回る音。指の先ほどの小さな独楽を目の前で作ってくれた。佐世保に伝わる独特な形の美しさ。丸太から同じ大きさの独楽を測らずともピタリと作ってゆく技。師弟関係が結ばれて三年が過ぎた頃、先代が突然倒れ翌日に亡くなった。訃報を聞いた全国各地の木工や鉄の職人仲間が「先代から宜しくと頼まれた」と助け励ましてくれた。皆口を揃えて、一か月前に大阪の伝統展で「次は息子が来るから宜しく」と先代から声をかけられたという。逢う人、訪れるお客さん、必要な人に助けられていると彼女が語る。

日本のハンドメイド

外国からのお客さんが店でニコニコしている。二十五年ほど前に佐世保に住んでいたという男性の母親は米軍基地内の学校の先生だという。彼女が体験ツアーで訪れた女性教師の名前と子ども二人と一緒だった記憶を話すと、男性は「それは兄と自分だ」と喜び母が色付けした独楽は家にあると言う。店にある当時の写真を二人で眺めた。男性がその場で写真をメールして母親から感激のメッセージが届いた。翌年、彼は婚約者を連れてやってきた。こうして、体験ツアーがきっかけのお馴染みさんが佐世保に来ると寄ってゆく。一時間だけと独楽を回す人、自分で色を付けた独楽をムキになって回す人。回るようになると歓声を上げて喜ぶ。ビデオを撮り自分も映り込んで楽しむ。オトナが飛び上がって喜ぶ様子を見て彼女は「彼らは私たちがどこかで忘れてしまったものを持っている」と感じる。

体験の喜び

様々な団体から依頼を受けて体験指導に出向く。自分で絵付けした独楽は宝物。紐を「しっかり巻いてね」が通じずクルクルと手を回し「いつまでたってもできん」と口を尖らせる子どもたちに、独楽を持つ手で先にかけた紐を押さえるよう見せる。プレイボードと名付けた大きな板の上に絵を描き、ボードの上を目指して回す。全身を使うから教えに行く度に筋肉が付くと笑う彼女。歓声が上がり、みんな笑顔になっている。その様子に彼女の心も踊る。笑顔を繋げてゆく活動をしていきたい。被災地に独楽とボードを送る。佐世保の高校生から被災地の子どもたちに独楽が渡され一緒に遊んだという話に耳を傾ける。

「教え方」を教える

留学先に地元の土産をと独楽を買い求める学生が来店。遊んだことが無いと聞き「回し方も覚えた方がよかっちゃない?」と現地で誰かに教えられるように一緒に独楽を回す。彼女の教え方は楽しい。何より回す姿がカッコいい。「やった!」一緒に声を上げる。ロシアに長期出張に行ったお客さんからの土産話には「独楽を回したら現地の人がニヤっと笑った」ウォッカを差し出され飲んで仲良くなったというエピソード。海外で言葉なんて無くても独楽で交流がはじまったという報告がたくさんある。独楽には人を笑顔にする力がある。「大人の為の独楽授業をやってみたいんです」と彼女が言う。

「いきながしょうもんしょうくらべ」

佐世保独楽で育った大人は「投げる」を体で知っていると彼女が言う。年代ごとに回し方、紐の巻き方も違うらしい。九十代の男性は「おい達しよったとよ」と曲芸独楽を見せてくれる。「喧嘩独楽せんば独楽じゃなかろう」と目を輝かす人もいる。毎年お正月に開催される大会は十四回目を迎え、今年は百八十人が参加した。上位者が必ず勝つとは限らない。遊べる伝統工芸品で大人から子どもまで「考えないで当てる」のに集中する。笑顔に励まされる。バンバン売れて儲かる仕事じゃないけれど、頑張って続けていかなくちゃ。

木に色を返す

彼女が憧れた漆や蒔絵は、現在形を変え、樹皮を煮出し独楽に塗る彼女の世界が完成。藍染めで木目の中に色が入る面白さも知った。デザインを学んだ娘は帰郷してオーダーの絵を独楽に描いてくれている。「間違っても黙っているよりいい」と生きた英語を使って話す。上手くやろうと考えなくていい。全身で汗をかきながら何度も放った独楽が奇麗に回った瞬間の興奮。「大丈夫、分からなくなったらいつでもおいで!」彼女の明るい声が耳に響く。無心になることを教えてくれる彼女は、地元「佐世保独楽」の使い手。

さあ、肩の力を抜いて
今、この時を楽しもう
目の前の全てが正解だから

長崎県指定伝統的工芸品 佐世保独楽インストラクター
山本 由貴子 さん
佐世保独楽本舗
佐世保市島地町9-13
TEL&FAX:0956-22-7934

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ライター
CHIKA
信州在住・佐世保は第二の故郷
ブログ「『お花畑で寝転んで』大げさなくらいでちょうどいい実行委員長CHIKA」
女性は世の中の「花」だから。
月刊「はなはな」が創刊当初から伝えたい想いです。
「はなはな人」を読み終えたあなたが一人の女性としてあなたの場所で咲くエネルギーになったらと願っています。

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