やまのみき 作

第一話「コウモリ傘と丘の上の家」

 佐世保市折橋町の高台に、古い洋館がある。僕の家の真裏にあたり、二階から覗くと、いつもその立派な出で立ちが目にとまる。洋館には、僕の高校時代の後輩が一人で住んでいた。なんでも、彼女の祖母が亡くなった時に相続した物件らしく、危険区域に指定されており、売却する事が出来ず、彼女が一人住むことになったらしい。これから語られる物語は、その洋館に住む後輩と僕が経験した世にも奇妙な物語なのだが、軽い気持ちで耳を傾けて欲しい。なにせ、突拍子のなさすぎる話なのだから…。

 夏の猛暑が過ぎ去り、秋の気配が顔を出し始めている。佐世保市の空は、九月に入り、過ごしやすい気持ちの良い風が吹き始めていた。鹿賀崇史は、折橋町の自宅を出ると緩やかな坂道を下って行く。珍しく平日の月曜日に仕事が休みとなり、時間潰しに街まで買い物に出掛けようとしていた。突然、後ろから声を掛けられた。慌てて振り向いてみると、若い女性が鹿賀に向かって手を振っていた。
「なんだ、たかみちゃんか」
鹿賀は、軽く手をあげる。三原たかみは、少し顔を曇らせながら、鹿賀の方へ駆け寄ってきた。
「なんだ!って、どういう意味ですか」
「いや、別に深い意味はない。驚いただけだよ」
「鹿賀さん、久しぶりですね。最近、お店にも遊びに来てくれないし。お元気でしたか?」
「うん、元気だったよ。たかみちゃんのパスタ、また食べたいなぁ」
「お店に食べに来て下さいよ」
たかみは、嬉しそうに微笑んだ。
「それで今日はどうしたの?」
「今日は月曜日だから、お店、定休日なんですよ」
「いや、そうじゃなくて、僕に話があるんじゃないの?」
鹿賀は、すまし顔で問いかける。たかみは、驚いたように目を丸くした。
「なんで、分かったんですか?」
「だって、顔に書いてあるもん」
鹿賀は面白そうに微笑んだ。
「で、何なの?」
「実は、祖母から相続した洋館に住み始めてから、変な事ばかり起こるようになっちゃたんですよ」
たかみの言葉に、鹿賀は丘の上に聳え立つ洋館を見上げる。洋館の手前に、黒いコウモリ傘をさした老婦人が立っていた。

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。