作:山野美樹

第一話 「秋山警部補、参上」

秋山卓也警部補の運転する白色のレクサスは、長いトンネルを潜り、佐世保みなとインターを越える。
助手席に乗っている五反田恵刑事の視界には、真っ青な海と佐世保港に停泊する海上自衛隊の護衛艦の姿が飛び込んできた。
秋山は助手席で興味津々に目をキョロキョロとさせながら外の景色を眺めている新人刑事に話しかけた。
「五反田ちゃん、今回で担当する事件は何件目なの?」
「三件目ですね」
五反田は慌てて秋山の問いに答えると、また窓越しに移る景色に視線を戻した。
「三件目か。それは不味いな」
「えっ?何が不味いんですか?」
「いや、刑事ってものはね。大体デビューから三件目くらいで、無理難題な事件にぶち当たるもんなんだよ」
秋山は少し意地悪そうに微笑むと、有料道路に視線を戻す。
「そうなんですか?そしたら今回の事件、ヤバいじゃないですか?」
「だからか。さっきから嫌な予感が、プンプンしてる」
「冗談はやめて下さいよ。秋山さんの直感は当たるって有名なんですから」
驚きの表情をみせる部下を横目に秋山は少しお道化たように肩を窄めると、佐世保中央インターの降り口方向に向かってハンドルを切った。

平成二十七年九月、佐世保市の聖文女子学園で、女子高生三名が行方不明になる失踪事件が発生した。
そのうちの一名、森吉祐子は三日後に意識不明のまま柚木地区の山中にある観音菩薩の祀られた祠の前で保護される。
その他は全く手がかりも無く、捜査は暗礁に乗り上げ迷宮入りへ。残り二人の生徒の消息は解らぬまま時は過ぎていった。
そして一年後、永い眠りについていた森吉祐子の意識が回復する。一報を受けた長崎県警本部は、捜査一課の秋山警部補と五反田刑事の二名を佐世保市に派遣。
捜査は佐世保烏帽子岳署から、長崎県警本部の捜査一課主導へ移行された。

佐世保中央インターで降りた秋山は、本島交差点で左折すると、小佐世保経由で烏帽子岳の山頂を目指す。山頂には、烏帽子岳一円を管轄する佐世保烏帽子岳署があった。
烏帽子岳署に到着した秋山は、あたり一面を緑で囲まれた広い駐車場に車を停める。車を降りた二人は、二階建ての白い箱型の建物に向かって歩きだした。
新人の五反田がキョロキョロとしながら、興味津々に周囲を見渡している。秋山は烏帽子岳山頂の空に浮かぶ、真っ白なモクモクとした雲を見つけて、その距離の近さに驚いていた。
「小さな警察署ですね」五反田はニコニコしながら秋山に話しかける。
「烏帽子岳を管理しているだけだからね。名前は立派だけど、実際は署員も5〜6人しかいない駐在所のような処だよ」
秋山は、興味津々の新人刑事をよそに、颯爽と烏帽子岳署の自動ドアを潜った。
「どちら様ですかぁ」受付の若い女性職員が慌てて声をかけてくる。普段は人の出入りが少ないのだろう。
受付の女性の声が少し上ずっていた。通路には、大きな観葉植物が一つ、目立つように置かれてる。秋山は黒いスーツのポケットから慣れた手つきで警察手帳を取り出すと、身分証を広げた。
二人はすぐに署長室に案内される。署長室には、ちょっと小太りの40代半ばの男性が敬礼して出迎えてくれた。