作:山野美樹

第十二話 「美猴憑きの一族」

 捜査二日目の夜。佐世保烏帽子岳署を後にした秋山警部補と西東警部、五反田刑事の三人は、大島署長と共に彼の行きつけの喫茶店、喫茶モナミで遅めの夕食を取っていた。
「大島署長、実は聖文女子学園を経営している大川内家について、少し情報が欲しいのですが」
秋山は、ケチャップたっぷりのナポリタンを頬張りながら、大島に話しかける。大島は一瞬ドキっとした表情を見せ、口に運ぼうとしていたサンドイッチを皿の上に戻した。
「大川内家の情報ですか?」
「そうです。大川内家にまつわる話で、何か猿に関する情報がないかと思いまして」
「えっ、猿?」
大島は一瞬、困惑な表情を浮かべる。西東は、デザートの珈琲ゼリーを美味しそうに頬張っている五反田を横目に見ながら、二人の話に耳を傾けていた。
「どうもこの事件のキーワードは、猿のような気がするんですよね」
秋山はニッコリ微笑みながら、大島の目を見据える。大島は蛇に睨まれた蛙のように顔を強張らせた。気まずい沈黙の中、カウンターに立っていた店のマスターが突然秋山に声をかけた。
「それって、美猴憑きの話ですよね。あの一族は、昔から猿に取り付かれた一族だからね」

 「大島署長、今日はお一人様じゃないんですね」
カウンターに立っていた店主の中山眞介は、機嫌良さそうに大島に話しかけた。
「今日は長崎県警本部捜査一課の刑事さん達をお連れしました」
「捜査一課ですか。エリート部隊の方達ですね」
店主は冗談交じりに大島に微笑む。還暦を過ぎた老舗喫茶店のマスターに、大島は何故かたじたじの様子だった。
「すみません。先ほどの大川内家の話なんですが、もっと詳しく聞かせて頂けませんか」
秋山は、興味津々に店主の顔を覗き込む。五反田は喫茶モナミ名物の巨大な珈琲ゼリーをやっと完食した。
「さっきも話したけど、大川内家の先祖はもともと美猴憑きを担当した一族なんだよね」
「美猴憑き?」
「そう、美猴憑き。あの一族はね。その昔、烏帽子岳で悪さする美猴王を封印する役目を先祖代々請け負っていた。まぁ昔からの古い言い伝えだけどね。美猴王って解ります?斉天大聖・孫悟空の事ですよ」