作:山野美樹

第十四話 「山が動いた日」

聖文女子学園の理事長室に呼び出された柚原慶子は、大川内理事長に手短に報告を始めた。
「捜査一課の刑事達は、大川内家の美猴憑きの話に目を付けた様です。そのうち、ここにも探りを入れてくると思います」
「そんな昔の迷信のような古い話を、いったい何処で聞きつけてきたんだ」
大川内は困惑な表情を浮かべ、大きなため息をついた。
「あの秋山という刑事は侮れません。早急にお父様にお願いして、捜査に圧力をかけて頂くのが宜しいかと」
「解った。親爺に連絡を入れておく。それより、烏帽子岳に新しい祠を建てる準備はしてあるんだろうね。また、がけ崩れでも起こしたら堪ったもんじゃない」
「もちろん手配してきました。ちゃんと封印のお札も準備してありますよ。お兄様は昔からビビりなんだから困ります」
慶子は楽しそうに微笑んだ。
「しかし、何でこう何度も結界が破られてしまうんだ。美猴王を封印しているお札に、誰かが悪戯をしているとしか考えられん」
大川内は苦虫を潰した様にムッとした表情で慶子を睨みつけた。

 聖文女子学園へ向け車のハンドルを握っていた五反田刑事の耳に、携帯電話の着信音が聞こえてきた。助手席に座っていた秋山警部補が慌てて電話に出る。
どうやら電話の相手は女性の様だ。彼は女性と話す時、少しだけ余所行きの声になる。秋山は自分の弱点を「美人に弱いこと」と笑い飛ばし、「駄目だった時は私が責任を取ります」と刑事部長に啖呵を切って、新人の自分を捜査一課に推薦してくれた。捜査は直感頼りだが、事件解決率は捜査一課ナンバー1を誇る。それでいて人懐っこい、とても不思議な上司だった。
「そうですか、解りました。すぐにそちらに向かいます。詳しくお話を聞かせて下さい」
秋山は、相手を落ち着かせるような優しい口調で電話を切った。「五反田ちゃん、予定変更だ。南佐世保総合病院に向かってくれ」「えっ、もしかして今の電話、森吉祐子さんからですか?」
驚く五反田に小さく頷いた秋山は、後部座席の西東警部に声をかけた。
「警部、山が動きましたよ。森吉祐子の事件当日の記憶が、少しだけ戻ったみたいです」