作:山野美樹

第十五話 「厄介な出来事」

 森吉祐子から「事件当日の記憶を取り戻した」と連絡を受けた秋山警部補は、急遽予定を変更して、西東警部と五反田刑事と共に南佐世保総合病院に向かった。病室の祐子は相変わらず人を寄せ付けないクールな瞳をしていたが、秋山には少しだけ心を開きかけているように見えた。
「実は、あの日の事で思い出した事があります」
「どんな事を思い出したのですか?」
秋山は優しく微笑みかける。五反田刑事は大きな目を見開いて、固まった様に全く動かなくなった。
「私達三人は、あの日烏帽子岳で大きな猿に襲われたんです」
「それは金色に光る毛並みを持った猿ですね」
「えっ、何故それを知ってるんですか?」
祐子は驚いた様に目を丸くする。秋山は祐子を落ち着かせる様に静かに頷いた。

「大きな猿って、一体どれ位の大きさだったんですかね?」
南佐世保総合病院から聖文女子学園に向かう車の中で、西東警部は森吉祐子の証言への疑問を口にした。助手席で腕を組んだまま窓の外の景色を眺めていた秋山警部補は、突然の上司の問いかけに笑顔で答えた。
「どうなんでしょうね。大きな猿としか説明されてないですから。彼女は、あの行方不明だったタクシーも大猿に踏み潰されたって話してましたね。となると、タクシーを踏み潰す位の巨大な猿が烏帽子岳に生息していた事になります」
「しかし、そんな巨大な猿がいたら目撃者が続出する筈ですよね」
西東は不思議そうに首を傾げた。
「私には、そんな話は信じられません」
運転席の五反田刑事が不服そうに話に割りこんでくる。秋山は部下を諭すように首を横に振った。
「五反田ちゃん。この世の中にはね、自分の頭の物差しだけでは測れない不思議な出来事が沢山ある。だから、もしそんな大猿がいたとしても別に驚く事はない。ただね、この大猿が千年前の獣の毛の正体だとしたら少し厄介な事になる」
「えっ、なぜ厄介な事になるんですか?」
五反田は驚いた様に大きな目をパチクリさせる。秋山は苦笑いを浮かべた。
「あの獣の毛は、西海市の長崎サファリパークでも発見されただろう。そこが問題なんだ。そうなるとその巨大な猿は誰にも気づかれずに、西海市と佐世保市の間を自由に行き来した事になるからね」