作:山野美樹

第十八話 「張り込みは森の中で」

 捜査四日目、秋山警部補と五反田刑事は、早朝四時から烏帽子岳の森の中で張り込みを開始する。朝七時前、二人は牛乳とアンパンを片手に、軽い朝食を取った。
「私、こういうの夢だったんですよね」
「え、こういうのって何?」
「張り込み中に牛乳とアンパンを食べる事です」
「君の頭の中は、食べる事ばっかりだよね」
「はい。食べる事は私に任せて下さい」
「まったく・・・」
呆れる秋山を無視して牛乳を飲み干そうとした五反田の手が止まった。森の静けさの中から、ガサガサと草を掻き分ける音が聞こえてくる。朝日の木洩れ日を浴びながら、一人の綺麗な女性が姿を現した。女性は右手に何か封筒の様な物を持っている。よく見るとお札か何かの様だ。
女性はタクシーが見つかったがけ崩れの前で立ち止まると、崩れた斜面をじっと見つめていた。秋山の合図に気が付いた五反田が慌てて牛乳瓶をそっと地面に置く。その瞬間、女性が右手に持っていたお札をビリビリに引き裂いた。
「何をやってるんですか?」
秋山は慌てて女性に駆け寄る。突然、後ろから声をかけられた女性は、一瞬ビクっと肩を震わせるとゆっくりと後ろを振り向いた。
「あら、刑事さん。こんな所でお会いするなんて思ってもいませんでしたわ」
柚原慶子はニッコリと微笑んだ。

早朝の森の中、秋山警部補は柚原慶子と対峙している。五反田刑事は秋山の斜め後ろに陣取っていた。
「刑事さん、何処までご存じなんですか?」
慶子は余裕の笑みで秋山に話しかけた。
「大島署長が貴女に情報を流していた様ですね。彼が全てを話してくれましたよ」
「そういう事でしたか。でも、もう手遅れです」
「何が手遅れなんです?」
秋山の目つきが鋭くなる。
「もっと詳しくお話をお聞きしたいですね」
後ろから五反田刑事も口をはさんだ。
「新人の刑事さん、それは無理な相談です。もう時間がありませんから」
「貴女は、一体何を企んでいるのですか?」
秋山は強い口調で問いただしたが、慶子は答えない。秋山の脳裏に嫌な予感がよぎる。その直後、烏帽子岳山中に、火山が爆発した様な大きな爆音が響き渡った。