作:山野美樹

第2話 「烏帽子岳の神隠し」

「捜査一課から刑事が派遣されてくると聞いて、もっと厳つい連中がやって来るのかと思ってました。今の捜査一課は昔とは違うんですね」
佐世保烏帽子岳署の大島錠次署長は、少し緊張した表情で秋山警部補に声をかけた。
五反田刑事も秋山と一緒に署長室の革張りのソファに腰かけている。
「そうですか。ご想像とかなり違いましたか?」
「えぇ。こんな爽やかな警部補と、新人の女性刑事がやって来るとは思いませんでした。あっ、悪い意味ではないですよ」
どこか隠れ家的なバーのマスターの様な風貌の大島に秋山は良い印象をもった。
「署長、実はうちの五反田は、新人で愛嬌だけが取り柄なんですが、一つだけ特技がありましてね」
「特技ですか」
大島が興味津々に耳を傾ける。
「そうです。まぁ特殊能力とでも言いましょうか。その能力を見込まれて、新人ながら捜査一課に大抜擢されたんですよ」
突然名指しされた五反田は驚きの表情で秋山の顔を二度見した。「そのうち、解りますから」
秋山は自信満々に頷いた。

「では、3人の生徒を乗せたタクシーは、聖文女子学園高校を出発して、この烏帽子岳の八合目付近で消息を絶ったのですね」秋山は、署長室のテーブルに広げられた地図の赤い罰点が記された場所を指さした。テーブルには事件の資料が山積みに置かれている。五反田は秋山の隣で、大きな目を丸くしながら必死に会話に耳を傾けていた。
「その通りです。未だにタクシーも二人の生徒も行方不明のままです」
大島署長は無念そうに小さく頷いた。
「まるで神隠しにあったみたいですね」
「いや、仰る通りです。初めは捜査員200名体制で烏帽子岳を隅から隅まで探し回ったんですがね。全く手掛かりなしで、今では我々が捜査を引き継いで細々と捜索を続けてます」
「そう言えばこの三人の生徒達は、タクシーで何処に向かってたのでしょうか?」
秋山は今一番心に引っかかっている事を口にした。
「う〜ん、それも解りません」
「では、それは意識が回復した森吉祐子さんに直接聞いてみましょうかね」
秋山の優しそうな目が、一瞬だけ鋭くなった。