作:山野美樹

第二十話「猿の分身の術」

 陸上自衛隊西部方面混成団長の杉原一等陸佐は、九十九島駐屯地の司令官室で朝のニュース番組に釘付けになっていた。テレビ画面には佐世保市内を暴れ回る巨大な猿の映像が映し出されていた。
「なんなんだ、これは。上から出撃の指示が出れば何時でも攻撃可能なんだが・・・これでは確実に米軍に先を越されてしまうな」
杉原は大きなため息をつく。巨大な猿は高天町にあるホテルビブロスをなぎ倒すと、佐世保文化体育館を片足で踏み潰し、大きな雄叫びを上げた。

 佐世保市長の飯島万次郎は佐世保市役所の最上階の窓から巨大な猿の姿を見つめていた。佐世保の街は大混乱に陥っている。飯島はイラつきながら副市長の内間に話かけた。
「まだ、政府は自衛隊に出動命令を出してないのか?」
「自衛隊に動きは無い模様です」
「何をグズグズしてるんだ。このままじゃ、佐世保の街は崩壊してしまうぞ。市民の避難状況はどうなってる?防災危機管理局の豊川課長を呼んでくれ」
「豊川課長は宇久島に出張中です」
「彼は佐世保にいないのか!どいつもこいつも、本当にあてにならんな」
飯島はがっくりと肩を落とした。

 命からがら逃げだした秋山警部補と五反田刑事は佐世保烏帽子岳署に向かって車を走らせる。運転中の秋山は思い出した様に五反田に確認を取った。
「柚原先生は無事にあの場を逃げ出せただろうか?」
「すみません。逃げるのが精一杯で彼女を見失いました」
五反田は悔しそうに拳を握る。その時、秋山の携帯が鳴った。
「秋山君、大丈夫?」
「あっ、喜一郎先輩。何とか生きてます」
「今、テレビを見てびっくりしたよ。あれが噂の孫悟空か?」
科捜研の副所長、西喜一郎は街を破壊する巨大な猿の映像を見つめながら秋山に問いかけた。
「こないだ秋山君から孫悟空の話を聞いて、ある仮説を思いついたんだ。西海市の長崎サファリパークの猿が一斉に消えた事件だけど、たぶんあれは孫悟空の分身の術じゃないかな?体毛を引き抜いて噛み砕き、息を吹きかけると沢山の分身が現れる奴。あれって術が解けると元の毛に戻っちゃうんだよね」
「なるほど。それであの特殊な毛がいっぱい溝に落ちていたのか。という事は・・・」
秋山は妙に納得したように呟いた。

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。