作:山野美樹

第二十一話「特急列車、空を飛ぶ」

 宇久島に出張中だった佐世保市防災危機管理局の豊川拓郎課長は、朝から宿泊先の旅館でテレビを観ながら驚いていた。
佐世保市に巨大な猿が出現し暴れ回っている。建物は崩壊し、市民は逃げ惑う。巨大な猿は佐世保駅のホームに停まっていた四両編成の特急列車を手に取り、おもちゃの様に投げ捨ててしまった。
信じられない光景を目にした豊川は、じっとしていられなくなる。旅館を慌てて飛び出し港へと走り出した。港の入り口にスーツを着た男性二人の姿を見つける。その先にある祠の前では、少女がしゃがみこんで手を合わせていた。確かこの祠には顕聖二郎真君の神が祀られている。西遊記の物語に登場する神様だ。観音菩薩の指示で、天界を暴れ回る孫悟空を捕まえたのが二郎神だったと思う。
男達は少女の祈る姿を後ろから黙って眺めていた。豊川は男性の一人に声をかけた。彼らは長崎県警の刑事らしい。小島と名乗った刑事は、豊川に小声で囁いた。
「実は少女を護衛中なんですがね。昨日の夕方から、彼女がここから動かなくて困ってるんですよ」
小島はあきれたように顔をしかめる。その瞬間、豊川の耳に大きな水の音が聞こえてきた。お手上げの表情を浮かべていた刑事達の顔色が突然変わる。豊川も目を丸くする。瞬く間に前方の海が大きな水音を立てて一気に盛り上がっていく。刑事達は慌てて少女の手を取り山に向かって走り出す。宇久島に驚く程の大津波が迫っていた。

 巨大な猿は、佐世保駅を粉々に壊した後、四ヶ町アーケードに向けて進路を変える。その時、佐世保市の上空に三機の飛行機が姿を現した。米軍の戦闘機AVー8BハリアーⅡだ。戦闘機は上空を旋回しながら巨大な猿の姿を捉えた。
「マーベリック、暴走するなよ」
アメリカ海軍エースパイロットのアイスマン大尉は、斜め後ろを飛行する部下へ檄を飛ばす。マーベリック少尉は、陽気に軽口を叩いた。
「大尉、こんな怪物相手に大暴れしなくてどうするんですか。しかし馬鹿みたいにデカいなぁ。まるで怪獣映画を見てるみたいだ」
三機の戦闘機は砲撃準備に入る。空対地ミサイルが巨大な猿に向けて一斉に発射された。ミサイルが怪物の顔面を捉えたが、全く効き目がない。
「何故だ。ちゃんと命中したのに!」
マーベリック少尉は声を荒げた。

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。