作:山野美樹

第二十二話 「二郎神、怒る」

 宇久島で森吉祐子を護衛中の三村警部の目の前に、巨大な津波が現れた。凄まじい水音を響かせながら大津波が迫って来る。
「ヤバい、津波に飲み込まれるぞ」
三村は祠の前で手を合わせていた森吉祐子の手を掴むと、部下の小島警部補と共に高台を目指して走り出した。防災危機管理局の豊川拓郎課長は大津波を確認すると、その場に立ち尽くした。津波の高さは三十メーター以上はある。刑事達は一斉に走り出したが、多分逃げても間に合わないだろう。豊島の脳裏に、佐世保市に残してきた家族の顔が浮かぶ。佐世保も巨大な猿が出現し街を破壊しているのだ。
「何とか無事でいてくれたら良いが・・・」
豊川が死を覚悟したその瞬間、突然目の前の海が鉄砲水のように大噴射を起した。物凄い風圧の中、水しぶきで豊川はずぶ濡れになり顔を伏せる。そして顔を上げた瞬間、豊川は信じられない光景を目にする。宇久島を背に甲冑を身に着けた巨大な魔人が、仁王立ちになり迫りくる大津波を待ち構えていたのだ。その体は大津波よりも大きい。
「ありゃなんだ?そうか、あの祠に祀られていた二郎神だな。あの少女の思いが通じて二郎神が現れたんだ」
豊島は一人納得しながらも、更に目を丸くする。宇久島を今にも飲み込もうとしていた巨大津波に、鬼の形相の二郎神が刀を抜いて切りかかった。大津波は一刀両断、海はきれいに二つに割れてしまった。

 佐世保烏帽子岳署に戻った秋山警部補と五反田刑事は、西東警部と合流すると署内のテレビ画面に釘付けになった。画面にはまるでモーゼの十戒の様に海が真っ二つに割れた映像が映し出されている。その二つに割れた海と海の間を、体長四十メートルはあるだろう甲冑を身に着けた巨大な魔人がゆっくりと佐世保湾に向かって歩いていた。
「何なんですか、あれは?」
西東は呆れた様に顔を顰める。
「警部、あれは西遊記に出て来る顕聖二郎真君じゃないでしょうか?二郎神は天界で暴れる孫悟空を捕まえた神です」
秋山の説明に西東は困り果てた様に呟いた。
「孫悟空に、二郎神か・・・もう、しちゃかちゃだな、こりゃ」  

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。