作:山野美樹

第二十四話 「種あかしは決戦の後で」

 巨大な猿と二郎神の戦いもいよいよ終盤。佐世保の街は建物が崩壊し、大惨事と化している。倒れこんだ二郎神に巨大な猿が馬乗りになって連打を浴びせ続ける。世紀の対決は巨大な猿の勝利目前に迫っていた。巨猿が最後の一撃を繰り出そうと右腕を振り上げる。その瞬間、佐世保市内の上空がキラリと光った。黄金色に輝く輪っかのような物体が、もの凄いスピードで地上へ落下してくる。上空の輝きに気が付いた二郎神は大きく目を見開いた。金の輪っかは一直線に巨大な猿の頭上に墜落する。巨大な猿は鈍い衝撃音と共に、痛そうに頭を抱えて倒れこんだ。

 「あの輪っかは、金剛琢というものです」
倒れこむ巨大な猿の姿を見て、森吉祐子は静かに呟いた。祐子は三村警部と小島警部補と共に、防災危機管理局の豊川課長が宿泊中のホテルの一室で、テレビ画面に釘付けになっていた。
「金剛琢?初めて聞く名前ですね」
豊川は興味津々に祐子の顔を覗き込む。三村はのんびりと熱い珈琲を口に含んだ。
「西遊記の物語に出てきます。天界で暴れる孫悟空の討伐に苦戦していた二郎神に加勢するため、観音菩薩が助言して太上老君という神にあの黄金の輪っかを投げさせるんです」
「なるほど。そして見事に孫悟空の頭に命中する訳か。しかし、君は本当に西遊記の話に詳しいね」
小島は感心したように頷く。その横から、三村が不思議そうな表情を浮かべ、話に割り込んできた。
「佐世保に巨大な猿が現れた。貴女はその巨猿を孫悟空と呼び、宇久島に渡って二郎神とやらを召喚し、海を真っ二つに割らせて孫悟空の討伐に向かわせた」
三村は独り言のように呟きながら、祐子の目を見据える。祐子は三村の鋭い視線に動じず、睨み返す。三村は呆れた様にため息をついた。
「で、貴女はいったい何者なの?これ、普通の女子高生のなせる技じゃないでしょ」

 数分後、二郎神は倒れこんだ巨大な猿を横目にゆっくりと立ち上がると、巨猿の頭にお札のような物を張り付けた。お札を張られた巨大な猿は、狂ったように手足をバタつかせながら煙となって消えていく。二郎神はその姿を確認すると、お役目御免と言わんばかりに瓦礫のように崩れ去って土に戻ってしまった。

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。