作:山野美樹

第二十五話「猿の事件の終りと始まり」

 巨大な猿が煙のように消えてしまった後、二郎神まで突然ボロボロに崩れ去り土と返ってしまった。残された佐世保の街は、終戦後の焼け野原の様に無残な姿となっていた。
「西東警部、ちょっと五反田ちゃんを借りますよ」
秋山警部補は上司の了解を貰うと、部下の五反田刑事を連れて佐世保烏帽子岳署の駐車場に走り出す。白いレクサスの助手席に乗り込んだ五反田は、慌てて秋山に問いかけた。
「秋山さん、こんな時に何処に行くんですか?」
「柚木地区の観音菩薩が祀られている祠だよ」
「あっ、森吉祐子さんが発見された場所ですか!」
「そう。あそこに、行方不明の女子高生の大林涼子と塩田はるか、それに柚原先生も倒れてるはずだ」
秋山は車のアクセルを全開に踏みこむ。五反田は不思議そうに秋山の横顔を覗き込んだ。
「どうしてそう思うんですか?」
「きっと、観音菩薩さまが三人を助け出してくれてるはずなんだ」
「そんな事ってありますかね?」
五反田は首を傾げる。秋山は微笑みながら呟いた。
「根拠なんて何もない。僕の直感」

 五反田刑事の運転する白色のレクサスは、長いトンネルを潜り佐世保みなとインターを越える。五反田の視界には、真っ青な海と佐世保港に停泊する海上自衛隊の護衛艦の姿が飛び込んできた。
「秋山さん、起きて下さいよ。もうすぐ佐世保中央インターに着きますから」
五反田は、助手席で眠っていた上司に声をかける。秋山はビックリした様に飛び起きた。
「何だ、夢か。びっくりしたなぁ」
秋山は、大きな欠伸をしながら助手席の窓を開ける。窓の外から心地よい潮風が流れ込んできた。
「怖い夢でも見たんですか?」
「いや、何でもない。馬鹿げた夢だよ」
秋山は苦笑いを浮かべる。外の景色を眺めていた秋山は、ふと五反田に問いかけた。
「五反田ちゃん、佐世保に巨大な猿の怪獣が現れたらどうする?」
「なに寝ぼけた事言ってるんですか。そんなの現れる訳ないでしょう」
五反田は、笑いながらウインカーを左に上げる。秋山の視界が、佐世保中央インターの看板を捉えた。秋山はふと運転中の五反田に視線を送り、ギョッと目を丸くする。五反田の服に、焦げ茶色の獣の毛が付いている。獣の毛は太陽の光を浴びると、金色に輝いた。

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。