作:山野美樹

第三話 「嫌な予感が当たるとき」

佐世保烏帽子岳署を出発した秋山警部補と五反田刑事は、烏帽子岳を名切方面に下ると、失踪事件で現在唯一の生還者である森吉祐子に面会する為、南佐世保総合病院に向かった。南佐世保総合病院は佐世保市で一番大きな総合病院で、佐世保市の繁華街の一等地に建設されていた。二人の刑事はまず主治医の清水医師と対面した。
「過去の事は覚えていない?では記憶喪失の様な感じなのですか?」
「そうです。森吉さんは、意識は戻ったのですが、タクシーに乗った所から先の記憶だけ失っている様なのです」
主治医の言葉に、秋山の爽やかな表情は見る見る曇っていく。その間に珍しく五反田が慌てて話に割り込んできた。
「その失踪中の記憶は、どれくらいで戻るのでしょうか?」
「どれくらいでと言われましても…。戻るかもしれませんし、戻らないかもしれません」
「それじゃあ、捜査は全然先に進まないじゃないですか」
五反田は大きく肩を落とした。
「嘘をついている可能性はありませんか?」秋山の問いに主治医は小さく首を横に振った。
「主治医の私でもそこまでは解りません。ただ一つ言える事は、忘れている可能性が高いという事です。一年ぶりに意識を取り戻しただけでも、奇跡の様なものですから」
秋山は主治医の言葉に納得したように頷くと、隣に立っていた五反田の耳元でそっと囁いた。
「だから、嫌な予感がプンプンするって言っただろう」

病室で初めて面会した森吉祐子は、思ったよりも顔色も良く元気な様子だった。透き通った白い肌に、二重の大きな目とふっくらとした頬が印象的な綺麗な顔立ち。少し人を寄せ付けないようなキツい瞳に秋山は一瞬心を呑み込まれそうになった。
「森吉さん、何も思い出せないのですね?」秋山は優しく微笑みながら祐子に話しかけた。
「はい、タクシーに乗った所までは覚えてるんですが、そこから先は何も…」
「そうですか。では、あなた達はタクシーに乗って何処へ向かっていたのですか?」
「それも覚えてません」
祐子は少し顔を強張らせる。秋山は一瞬、五反田と目を合わせた。