作:山野美樹

第六話「西遊記と獣の毛」

聖文女子学園から佐世保烏帽子岳署に戻った秋山警部補と五反田刑事は、大島署長と捜査初日で得た情報を共有していた。一年間の永い眠りから覚めた森吉祐子は、残念ながら事件当日の記憶を失っていた。しかし担任の柚原慶子の証言によると、行方不明になった大林涼子と塩田はるかの二人は、毎日放課後に図書館へ通って調べ物をしていたらしい。いったい彼女達は、何を調べていたのか?。
「二人は、頻繁に図書館である書物を読み漁っていたようです」
「図書館に?いったい何の本を読んでいたんですか」
大島は秋山の話に耳を傾けながら、熱い珈琲を口に含む。五反田は話し込む二人の顔を見比べながら、差し入れのドーナツを美味しそうに頬張っていた。
「西遊記の本です」
「えっ、西遊記?あの孫悟空とか猪八戒が出て来る奴ですか?」
「そう、その西遊記です」

秋山と五反田は、光月町にある宿泊先のホテルロータスハウスへと向かう。時間は夜の二十一時を回っていた。ホテルはヨーロッパのプチホテルを思わせる外観で、一階にはイタリアンのレストランがある。秋山と五反田は早々にチェックインを済ませると、一階にあるレストランでパスタとオムライスを注文し事件の話を始めた。
「秋山さん、科捜研にいったい何の遺留品の再調査を頼んだんですか?」
「あぁ、あれね。獣の毛だよ」
「獣の毛?一年前、森吉祐子さんが発見された時に、制服に付着していた奴ですか?」
五反田は不思議そうに瞬きをした。
「そう、あの毛は何の獣のものなのか。それが知りたいんだ」
「なぜ、長崎県警のデータベースに残ってないんでしょうね。当時の鑑識班が調べてそうなのに」
「何かのミスでデータが消えてしまったのか、それとも誰かが故意にデータを消したのか…。いずれにしても無いものは仕方がない。でもね、データに残って無かった事が、逆に僕らに有利に働くかもしれない」
秋山はニッコリ微笑む。
「なぜそう思うんですか?」
「深い意味はない。僕の直感」
そう言うと、秋山は何かを考える様に、静かに黙り込んでしまった。