作:山野美樹

第八話「獣の毛の正体」

「今回は、相棒の西東警部とは一緒じゃないんだね」
科捜研の西副所長は烏帽子岳のがけ崩れ現場で、秋山警部補に問いかけた。
「西東さんは、西海市の長崎サファリパークの事件で頭を抱えてますよ」
「あっ、あの事件か。もう二週間近く経つよね。まだ何も進展してないの?」
「残念ながら全く手掛かりなしですね。大体、一日のうちに動物園の猿達が一匹残らず消えてしまうなんて、普通じゃ有り得ないでしょう」
秋山は顔をしかめる。西は大きく頷いた。
「それでこっちに、新人の刑事を連れてきた訳か」
「西東警部なら一人でも何とかするでしょうからね」
秋山は苦笑いを浮かべた。
「そういえば、秋山君に頼まれてた、獣の毛の鑑定結果が出てるよ」
「えっ、もう解ったんですか?」
「徹夜で調べ上げたからね。久しぶりに、なかなか厄介な鑑定だった。あれはね・・・」
西の表情が急に険しくなった。

「あれは猿の毛だね」
西副所長は、原型を失ってしまったタクシーを横目に、秋山に依頼されていた獣の毛の鑑定結果を伝えた。
「猿の毛ですか」
「そう。猿だよ、猿。ただね、ここからが問題なんだが普通の猿の毛ではない。どうやら千年前の猿の毛のようだ」
「えっ、千年前?」
秋山は怪訝な表情を浮かべた。
「うん。千年前のもので間違いない。あの毛に付着していた土や微生物の痕跡から年代を判定できる。しかしあの古い猿の毛が、何故あんな綺麗な状態で発見されたのかが解らない」
西は腑に落ちないような複雑な表情を浮かべる。秋山は、西の鑑定結果に納得したように頷いた。
「やっぱりあれはただの獣の毛ではなかったんですね。問題は、千年前の猿の毛がどこで森吉祐子の制服に付着したのか。そして何故この獣の毛だけが県警のデータベースから綺麗に消されていたのか?」
秋山は小さなため息をついた。西は周りを一瞬見渡すと、秋山を近くに寄せ小声で囁いた。
「秋山君、この事件は気を付けた方がいい。事件のデータベースが消されていた件だけど、実はこっちの方も秘密裏に調べてみたんだ。どうやら捜査に圧力をかけた人物がいる」