やまのみき 作

第十話 「夢のおはなし」

 鹿賀とたかみは、三浦町にある墓地に向かって歩を進める。鹿賀は懐かしそうな表情を浮かべながら、たかみから質問を受けた、死んだ母親が出て来た夢の話を語りだした。

 鹿賀は夢の中にいる。ここは何処なのだろう? 大きな川の河川敷にある野球のグラウンドのベンチに腰かけていた。なぜか野球のユニフォームを着ている。ベンチを背に河川敷の道があり、沢山の一般人が応援に駆けつけていた。試合は9回裏の攻撃。バッターボックスに選手が立っていた。ピッチャーがボールを投げる。バッターがフルスイングしたバットが、完璧にボールを捕らえた。打球はショートの頭上を越えていき、打ったバッターが走り出す。レフトの選手がボールを取り損ねてもたつく間に、バッターはファーストベースを駆け抜け、セカンドベースに滑り込んだ。奇麗なツーベースヒットを横目に、鹿賀は盛り上がるベンチの中で一人頷く。どうやら、自分のチームが攻撃しているようだ。そんな中、一緒にベンチに座っていた年配の男性が、鹿賀に声をかけた。
「おい、鹿賀君。君の打順だ」
声をかけられた鹿賀は、思わず目を丸くする。試合は9回裏、2アウトでランナー一塁。スコアは、1対1の同点。一打逆転のチャンスだ。鹿賀は慌ててベンチから立ち上がると、バットを片手にバッターボックスに向かって歩き出した。バッターボックスに立つ。草野球の試合に出るなんて何年ぶりだろう。そんな考えが頭の中で過ったとき、ふと、バッターボックスの後ろから、女性の声が聞こえた。
「あれが、うちの息子ですよ」
鹿賀は、聞き覚えのある声に、慌てて振り返る。河川敷の道沿いに立っていた大勢の応援の人ごみの中に、母の姿を見つけた。
「お母さん!」
鹿賀は思わずバットを投げ捨て、人ごみに向かって走りだす。審判の男性が慌てて鹿賀に声をかけたが、鹿賀の耳には届かなかった。母は優しそうな笑みを浮かべ微笑んでいる。鹿賀は母に思いっきり抱きついた。
「お母さん、なんで僕を一人残して先にいってしまったんだ。僕はこれからどうやって生きていけばいいんだよ」
鹿賀は大声を出して泣きじゃくる。母が困惑したような表情を浮かべ、鹿賀の顔を見つめていた。

そして、目が覚めた。

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。