やまのみき 作

第十一話「近況報告」

 「お母さんが亡くなられて間もない頃に、そんな夢を見られたんですか。なんだか切ない話ですね」
たかみは、三浦町の急な石段を登りながら、鹿賀に話しかける。振り向くと、三浦町にあるカトリック教会の建物を背に、佐世保の港を一望する奇麗な海の景色が広がっていた。港には、まるで海に浮かぶホテルのような、大きな豪華客船が停泊している。鹿賀は軽く目を閉じながら、たかみの声にうなずいた。
「切ない話というかね。母が心配して夢に出てきてくれたって、解釈してるんだよ。そう思うと、何故あの時、心配しなくても大丈夫。僕は一人でも生きていけるって、言えなかったんだろうって・・・そう答えていれば、母を安心させてあげられたのにって、そんな風に思っちゃうんだよね」
「言ってしまったことは、仕方がないじゃないですか。またいつか、お母さんが夢に出て来た時に、もう心配しなくても大丈夫って、言ってあげれば良いですよ」
たかみは、鹿賀を元気づけるように、明るい声で話しかける。鹿賀はにっこり微笑むと、大きく頷きながら、階段を登っていった。

 石段を登りきった先に、古い日本家屋の建物に囲まれた小さな墓地が姿を現した。鹿賀はとっさに一礼すると、呼吸を整えながら墓地の敷地内に入っていく。たかみもその後に続いた。鹿賀は母の眠る先祖の墓の前で立ち止まる。父が盆参りの時に墓掃除をしてくれたのだろう。鹿賀家の墓は、奇麗に手入れされていた。鹿賀はお供え用にと自販機で購入していた缶コーヒーを墓の花差しの横に置き、静かに手を合わせた。参り終えた鹿賀に、たかみが興味津々に話しかけた。
「いったい、何をお母さんに報告したんですか?」
「報告?」
たかみの問いに、加賀は思わず目を丸くする。
「いや、だって。普通、お墓参りする時って、ご先祖様に近況報告するじゃないですか」
「あっ、そういうことね。いや、何も近況報告はしてない。お陰様で、無事に生活できてますって、話しただけだよ」「鹿賀先輩、それも近況報告ですよ」「あっ、そうか!」
鹿賀は思わず、吹き出してしまう。たかみは、そんな鹿賀の笑顔に安らぎを感じていた。

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。