やまのみき 作

第四話 「鷹の物語」

 ある日の夜の出来事。三原たかみは深夜遅くに、亡くなった祖母から譲り受けた古い洋館に帰宅した。外の世界は、月の光に照らされて何時もより少し明るい。満月の夜だった。たかみは、帰宅するなり猫足のついた白いバスタブにお湯をためる。ゆっくりと時間をかけて湯船につかり、仕事で疲れた体を癒した。風呂から上がると、リビングから窓の外を眺め缶ビールを飲み干す。一瞬、人の気配を感じた。たかみは慌てて庭の隅々に視線を向ける。人の姿はどこにも見当たらなかった。

 深夜、洋館の中に一人。たかみは独り身の寂しさをかみしめながら、寝室へと向かう。オーナーシェフとして店を切り盛りする現状に満足していたが、彼氏を作る暇はなかった。寝室にはダブルベッドに大きなクローゼットが一つ。その他、無駄な物が全くない、シンプルな部屋だ。たかみはベッドに横になると、スタンドの明かりを消そうとスイッチに手を伸ばす。その瞬間、突然、閉めていたはずの窓が開く。驚いたたかみが、悲鳴を上げる。窓の外から巨大な生き物が家の中に入ってきた。たかみは唖然としながら天井を見上げる。その生き物は、二メートル以上はある巨大な鷹だった。

 鷹と目が合った。絶望を感じさせる、死人のように冷たい目。たかみは恐怖から、体が硬直してしまい動けない。鷹は天井すれすれの高さから、部屋中を見下ろしていた。
 突然、「キー!」という奇声を上げ、鷹がたかみに襲い掛かってきた。鋭い爪でたかみの体を鷲掴みにする。大きな翼をバタつかせながら、一気に空中へとたかみを持ち上げた。連れ去られまいと、たかみは必死に抵抗する。鷹が翼を羽ばたかせるたびに、沢山の羽が宙を舞い、床やベッドの上に茶色い羽が撒き散らかされた。格闘すること約五分。たかみのあまりの抵抗に業を煮やした鷹は、掴んでいた体から爪を離す。たかみは、真っ逆さまにベッドの上に落下した。巨大な鷹は、一目散に窓から外へ逃げ出していく。たかみは慌てて鷹の姿を目で追った。窓越しに誰かがこちらを覗いている。その姿を見た瞬間、たかみは気を失ってしまった。

 

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。