やまのみき 作

第六話 「独り言」

 「そういう事ですか」
鹿賀は、庭先から窓越しに盗み聞きをしていた郁美の話に耳を傾ける。郁美は、その美しい瞳で鹿賀の目を見つめながら大きく頷いた。
「ねっ、私が心配するのも分かるでしょ。貴方、けっこうヤバい話に巻き込まれる可能性が高いってこと。悪いこと言わないから、あの子と関わるのは辞めときなさい」
「それなら、もう首突っ込んじゃってますよ。それに、そんな話聞いちゃうと、益々ほっとけなくなるでしょう」
「あのね、貴方はそういう優しすぎるところが駄目なのよ。もっと自分を大切にしたほうが良いわ」
郁美は、鹿賀をたしなめるように語りかける。鹿賀は困ったように顔をしかめた。
「じゃあ、郁美さん、力貸してくださいよ」
「えっ、私が? いくら鹿賀君の頼みでも、流石にこの件は無理よ。私まで巻き込まれちゃうもん」
「良いじゃないですか。この際、一緒に巻き込まれちゃいましょうよ」
鹿賀は、少し意地悪そうに微笑んだ。

 「お待たせしました〜」 着替えを終えたたかみが、庭の入り口から声をかける。鹿賀は慌てて振り向いた。
「鹿賀先輩、さっき誰かと話してませんでした?」
「えっ、いや話してない。独り言を・・・」
「そうですか。なんか女の人の声が聞こえたような気がしたんですけど」
たかみは、不思議そうに首をかしげる。庭先に、女性の姿は見当たらなかった。二人は、折橋町の長い坂を下ると、T字路を右折し国道204号線に向けてゆっくりと歩いていく。右手に、城山タクシーの本社ビルが視界に入ってきた。ビル一階は駐車場になっており、配車待ちのタクシーが数台停まっている。秋山は歩きながら、先ほどたかみが話していた鷹の話を思い出していた。あの鷹の正体が、郁美の言うようにヤバいものだとしたら、このまま関わり続けるのは不味い。当たり障りない話をして、そのまま別れたほうが良いと思う。しかし、郁美の話が真実なのであれば、たかみにとってそれは、本当に悪いことなのだろうか?鹿賀は澄み切った空を見上げながら、小さなため息をついた。  

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。