やまのみき 作

第七話 「路地裏の猫」

 たかみを散歩に誘った鹿賀は、国道沿いから三ヶ町アーケードに入ると、アーケードを直進し四ヶ町アーケードに向かって歩を進める。真っ白のワンピースに袖を通したたかみは、ワンピースの裾を風でふわりとなびかせながら、鹿賀の隣に並んで楽しそうに歩いていた。
「たかみちゃんと二人で出かけるのって、どれくらいぶりだろう?」 「さぁ、どうでしょう。すごく久しぶりだと思いますよ。ところで鹿賀先輩、何処に行くんですか?」
たかみは、嬉しそうに話しかける。鹿賀は歩くスピードを少し緩めながら、たかみの問いに答えた。
「せっかくアーケードまで歩いてきたから、ちょっと珈琲でも飲んでいこうかと思って」
「えっ?もしかして、鹿賀先輩の行きつけのお店ですか?」
「そう、僕の行きつけのカフェ」
「カフェ・ハッチですよね?」
「そうだよ」
「いや、ちょっと待ってください。私、あそこのママ苦手なんですよ」
たかみは、思わず顔をしかめた。
「ママと何かあったの?」
「こないだ、久しぶりに顔出したんですけど、思いっきりママに無視されてしまって」
「そうなの?そんな事するような人じゃないけどなぁ」
「しかも、お水も出してくれなかったんですよ。酷くないですか」
「たかみちゃんに、気が付かなかったんじゃないの?」
「そんな事、あるわけないでしょう」
たかみは、不機嫌そうに口を尖らせた。

四ヶ町アーケードの狭い路地裏に入ると、カフェ・ハッチの小さな看板が目に映る。路地には、太っちょな三毛猫が一匹、気持ちよさそうに寝そべっていた。鹿賀は、手慣れた手つきで重厚な木の扉を開けた。店の中から珈琲豆の心地よい香りが、漂ってくる。鹿賀は、扉の隙間から、店内を覗き込んだ。6人掛けのカウンター席には、ご婦人の二人組が腰掛けている。2つあるテーブル席は無人のままだった。カウンターで珈琲を入れていた女性が、鹿賀の姿に気が付き明るく声をかけてきた。
「鹿賀君、いらっしゃい。今日は早いわね。お仕事休みだったの?」
「珍しく、平日に休みなんですよ」
鹿賀は店内に入ると、左奥のテーブル席に腰掛ける。たかみは女性と目も合わさず、鹿賀と向かい合うように席に着いた。

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。